事業案内

H22(2010)年度日本精神科救急学会発表要旨

東京都における“日中の”精神科救急医療体制 “深夜の”初期救急の必要性
二次救急ケースの症状発生日時 深夜に初期救急が必要であったケースの解析から

羽藤邦利 西村由紀 (特定非営利活動法人メンタルケア協議会)

資料 (PDF : 515KB)

平成14年9月に改編された東京都の夜間休日精神科救急医療体制では、夜間と日祝の日中に当番病院が準備されているが、月~土の日中には準備されていない。これは、日中は通常の医療機関において対応がなされることを前提に考えられている。従って、東京都の日中の救急体制は、24条通報を初めとする措置診察ルートと、精神科病院からの身体合併症受け入れのみとなっている。その他は、非専門職による医療機関案内のみである。

また、月~土の深夜22時以降と、日祝の夕方17時以降については、入院対応のみで外来は受け付けていない。外来で済むケースであれば、翌朝まで待てるであろうという想定で考えられている。従って、東京都では深夜の初期救急はない。

しかし、精神科救急医療情報センターには、「昼間のうちにかかりつけやいくつかの病院をあたったが満床で受けてもらえず、17時になったら情報センターへ電話するように言われた」「かかりつけはクリニックで病床が無く、日中ずっと入院先を探してくれたが見つからなかったので、紹介状だけを持っている」「1週間も前から具合が悪く入院を希望しているが、かかりつけの入院ができるまでにまだ数日待たされる。とてもそれまで持ちそうにない」など日中に発生していたケースの相談が少なくない。そこで、平成21年に発生した二次救急ケース390件について、入院に直結した症状が発生した時期を洗い出してみた。その結果、“当夜から”または“当日昼から(日祝)”に問題が発生したケースは、62件(16%)に過ぎず、それ以外は、数日~1ヶ月以上も前から問題が起こっていたことが明らかとなった。このことから、二次救急を利用したケースの多くは、日中に対応できる病院を見つけて入院しておいた方が良かったケースと考えられた。その内訳を、相談内容で見ると意識障害や自殺企図のケースは当日発生したものが多いが、興奮や幻覚妄想などのケースは当日以前から対応できていなかったものが多い。

次に、深夜に初期救急がないために対応に困ったケースがどのくらいあるのかを調べるために、月~土の深夜22時以降と、日祝の夕方17時以降に情報センターに寄せられた相談のうちで、受診出来ないために、当夜を凌ぐことがかなり辛いと思われたケースを、平成21年のケースから洗い出してみた。その結果、年間337件に上っていることが分かった。そのうち、もっとも多いのは不安焦燥やパニック発作であった。薬の副作用が6%、(できるだけ早く処方が必要と思われる)薬切れ11%、自殺念慮で外来受診レベルのものが12%あった。「パニック発作で救急要請されたが、受け入れ病院が見つからない」「ひどいアカシジアでずっと動き回っている」「眼球上転や筋硬直がある」「希死念慮が強く外来受診を希望している」「数日前もひどい自傷行為をしてしまったが、本日も自分が止められずやってしまいそう」「妄想がでてきて家族が見守っている」などである。

今回の調査結果から、現在の東京都の救急医療体制では、日中は措置診察ルート以外のソフトな救急体制が無いために、措置要件のないケースが入院の必要な状態となっても、かかりつけや医療機関同士の連携などで入院が見付けられない場合、何日もベッドが空くのを待っており、そのために休日夜間を待って精神科救急医療情報センターを利用している場合があること、2次救急のケースの多くがそうしたケースで占められていることが明らかとなった。また、深夜には初期救急が整備されていないが、深夜の時間帯でも、初期救急を初めとする「速やかに診療が受けられる仕組み」がどうしても必要なケースが発生していることがわかった。

今後のシステムの整備が行われる場合は、検討することが望まれる。